ブリティッシュ・カウンシルが今年初め、イギリスの中学1年生2,083人を対象に実施した調査によると、90%近くが、学校卒業後の進路に語学は必要ないと感じており、さらに、語学を学ぶことはまったく役立たないと考えている生徒もいることが判明しました。言語学習の傾向に関してイギリスの現状の一コマではありますが、一方、インターナショナル教育で言語学習が重視されていることとややずれています。ブリティッシュ・カウンシルの担当者は、これは言語学習の難しさを一部の学生が感じていることに加え、学生やその家族が言語学習に価値を置いていないことが原因ではないかと指摘しています。では、イギリス国内教育がインターナショナル教育から学べることはあるのでしょうか。
目次
追加言語を学ぶメリットは何でしょう?
ブリティッシュ・カウンシルの調査によると、ほとんどの生徒が長期的な言語学習の重要性を認識していないにもかかわらず、4分の3近くの生徒が、小学校で追加言語(母国語以外の言語)を学ぶ機会を持つべきだと考えており、また、45%以上の生徒が新しい言語を学ぶことが好きだということが調査でわかりました。つまり、長期的なメリットはおそらく認識されていないものの、言語学習が楽しい体験であることがうかがえます。
追加言語学習を科学的に見ると、認知的な利点について述べた研究は数多くあります。2020年にレディング大学とジョージタウン大学が行った研究によると、追加言語を話せる子供や若者は、一言語のみ話す子供や若者に比べて、脳の灰白質が発達していることがわかりました。灰白質は情報を処理し伝達する機能を掌るため、この分野の能力が高いことを示唆していると考えられます。また、灰白質は大人になってから減少するため、子供の頃に灰白質が多いと、脳の機能を長く保てる可能性があります。
追加言語を学ぶことのもう一つの認知的利点は、個人の「実行機能能力」を発達させるのに役立つことです。実行機能能力とは、集中力と注意力、計画を立て目標に向かって努力する能力、自制心を発揮する能力、多段階の指示に従う能力、仕事を切り替える能力のことです。言語間を行き来するには、高度な集中力と、言語切り替えのスピードが必要です。このように、柔軟性と集中力は、生活のあらゆる場面で実行機能を発達させるのに役立ちます。
また、2ヶ国語を話せる子どもはモノリンガルの子どもよりも創造性が高く、問題解決能力が高いという指摘もある。ストラスクライド大学の研究によると、創造性と問題解決におけるこのような利点は、言語面だけでなく算数にも現れるそうです。バイリンガルの子どもの方が、パターンを理解しやすく、「枠にとらわれない」思考ができるそうです。
追加言語を話すことは、社会性や情緒の発達にも影響すると言われています。社会的・情緒的能力とは、個人が自分の感情をどのように調整するか、他人とどのような人間関係を築くか、共感する能力、人生の困難にどのように対処するか、などを含みます。他言語を学ぶことで、物事を別の視点から見ることができるようになり、他者とのつながりが強くなり、自信がつき、より共感できるようになります。
言語はまた、文化的認識を高めるための手段でもあり、これは学校の中でも非常に重要な要素です。文化的な考えやストーリーは言語を使って表現されるため、言語を学ぶことで、他の文化がどのように考え、何が重要で、どのように同じかもしくは違うかを知ることができます。言語は幅広い知識にだけでなく、より幅広い人々と効果的にコミュニケーションをとるための社会的情緒的能力にも役立ちます。そして、共感力を高め、自分自身の考えやアイディアの妥当性について考えることができるようになるのです。
最後に、言語学習は新たな扉を開きます。ブリティッシュ・カウンシルの調査で、子どもたちは認識していませんでしたが、概して、多くの職場で追加言語を話せることが望まれています。世界はますます流動的になり、現代の子供たちは、地球の反対側から来た人々と交流する機会が増えます。第二、第三言語で効果的なコミュニケーションができれば、人間関係を築き、ビジネス上の交流を助け、人生を豊かにすることができます。
追加言語学習能力に影響を与える要因
幼いうちから2つまたは3つの言語に触れることで、自然にバイリンガルやトリリンガルになる子供もいます。しかし、一般的には、追加言語の習得に影響を与える要因がいくつかあり、個々人によって様々です。
一つ目は習得年齢です。一般的に、年齢が低いほど新しい言語を習得しやすいと言われており、そのため、多くの学校では、追加言語をかつては中学校で教えていたのに対し、現在は小学校で教えています。二つ目に、第一言語または母国語が第二言語の学習に大きな影響を与えます。通常、第一言語の総合的な能力は第二言語の能力に引き継がれ、二つの言語の間に類似点があれば、一般的にその言語の習得は容易になり(「正の転移」)、二つの言語が大きく異なる場合、その言語の習得が難しいです(「負の転移」)。三つ目に、その人が受けるサポート量も第二言語の習得に影響を与えます。これは家庭と学校に当てはまり、家族、教師、友達と一緒ににその言語を使う機会や、受けた指導の質に関係します。最後に、あらゆる学習と同様に、その言語を学びたいという気持ちが重要です。やる気と必要に迫られると、言語の習得は格段に早くなります。
インターナショナルスクールにおける言語学習
言語学習と母国語を尊重することは、インターナショナルスクールでの経験やグローバルマインド育成の基本的な側面です。生徒にとって、追加言語を使いながら自己文化のアイデンティティを保持することは重要なので、母国語を共有する機会は頻繁に設けられています。
多くのインターナショナル・スクールでは、主な授業言語は英語ですが、生徒は小学校の頭から(学校によってはそれ以前から)ホスト国(その学校のある国)の言語も学びます。こうすることで、生徒は現地の生活に溶け込み、新しいコミュニティに対する理解と尊重を高めることができます。学校では週に何時間か語学の授業があり、ホスト国に来たばかりの生徒には基本的なコミュニケーションに必要な初歩的な基礎を教え、その国に長く滞在している生徒やその国の出身者には言語能力を維持・向上させるためより高いレベルのレッスンを行います。生徒達は、語学の授業や全校行事を通して、ホスト国の伝統やお祝い行事に触れます。
多くの学校では生徒の年齢が上がるにつれ、ホスト国の言語に加え、別の言語も学ぶ機会があります。また、母国語とホスト国の言語が異なる場合でも、母国語を継続的に伸ばすことができるよう、学校コミュニティを代表するいくつかの言語で授業を行う学校もあります。
インターナショナルスクールの中には、東京でも少数ではありますが、例えば週の半分を英語で過ごし、残りの半分を日本語で過ごすといったようなバイリンガルプログラムを提供している学校もあります。両言語を同じ時間ずつ過ごせれば、同等に発達できると考えられています。東京には、英語と日本語のプログラム、英語とフランス語のプログラム、日本語とフランス語のプログラムなどを提供する学校があります。
最後に
複数の言語を話せることは、一般的に有利であると認識されています。マルチタスク、創造性、記憶力に関して認知的な利点があることが確認されており(最近の研究では、アルツハイマー病の発症を遅らせる効果もあると言われています)、バイリンガルの学生はモノリンガルの学生よりも学業面で有利であることも示唆されている。バイリンガルであることは、異文化への理解を深めるだけでなく、自分自身のアイデンティティを確立することにもつながり、雇用主にとっても求める資質となってきているので、多言語を話すことができる人々の方がより多くの仕事のチャンスが得られます。
したがって、イギリスの教育制度も、追加言語に対するインターナショナルスクールでの教育から何かを学ぶことができるはずです。言語学習は、家庭でも学校でも大切です。生徒も地域社会も、認知的および文化的な利点について学び、言語学習によって生まれる可能性があることを知っておくといいでしょう。